FIKA.Blog

#001「賑やかなお葬式」

招かれざる客 / セレモニーホール(大阪)

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写真の中の史子は穏やかに微笑んでいる。
親族席の薫と光の元には焼香を終えた弔問客が挨拶に来ていた。

若い頃、高校教師として働いていた史子の告別式には、元教え子と思われる参列者が多くいた。
薫にとって馴染み深い顔もあったが、面識のない人がほとんどだった。

鼻をすすりながら挨拶をしていった眼鏡の男の子。

焼香の最前列にいる、喪服のネクタイが曲がり髪もボサボサの男。

急ぎ足で入ってきた、母と同じくらいの年代のショートヘアの女性。

そして一番後ろの席に座り、長い間前を見つめるだけの男。

今、薫たちの目の前にいるのは、信一おじさんという父の兄にあたる人だ。
おじさんとは両親が離婚した後も(薫たちは母に引き取られた)付き合いが続いていた。

「史子ちゃん、優しい子やったからなぁ。ほんまに悲しいわ。薫ちゃん、光くん、2人だけになってしもて可哀想になぁ。」
そう言うと、セレモニーホールに響き渡るような声で泣き出した。
「うわぁあああぁぁ…。」
「信一おじちゃん、他の人もいてはるし…。」
薫と光が慌ててなだめる。

「なあ、あれお笑い芸人ちゃう!?」
突然誰かが叫んだ。見ると焼香の列の横に人だかりができている。

「もしかして薫ちゃんの彼氏? 何や、有名人と付き合うてへんかった?」
「は? 薫、ほんまに?」
光がちょっと青ざめた顔で薫の方を振り返った。
「まさか…。」

嫌な予感がして薫は人ごみを目で追った。しかしそれらしい人物は見当たらない。
「サインもらわな!」
泣いていたはずのおじさんが一目散に駆けて行く。

人ごみはさらに大きくなり、厳かな告別式は一転、大混乱になった。

契約書 / 親族控室

控え室では先ほどの騒ぎを引きずって、歌ったり踊ったりのどんちゃん騒ぎが繰り広げられていた。
元来明るい人たちに告別式のしんみりとした空気は合わなかったらしい。

薫は隅のテーブルに座らされ、その周りをぐるっと信一おじさんたち、父方の親族に取り囲まれた。

「薫ちゃん、史子ちゃんの後引き継いで、探偵事務所の社長になってほしい。ここに印鑑押すだけや。」
薫の目の前に書類が置かれた。

「信一おじちゃん、薫、警察官やで。社長なるんやったら仕事辞めなあかんやん。」
光が一応の抵抗を試みる。

「転職せえ。社長の方がええがな。」
「そんな…。」

信一が薫に印鑑を持たせた。
どうやら書類も何もかも周到に準備してあったらしい。土地の所有者と事務所経営責任者の名前が、史子から薫に書き換えられるという書類らしかった。

全員の視線が薫に注がれ、その無言の圧力には有無を言わさぬものがあった。

書類の一番下に『林』という印が押される。

「おめでとう。」
親族一同がホッとしたように笑顔を向けた。

– 探偵事務所の社長…?

母が長い間、事務所の手伝いをしていたのは知っている。
もともと土地をいくつか所有し、いろんな商売に手を出していた信一おじさんが、母に任せっきりにしていた仕事だ。

薫はその事務所に足を運んだこともなかったし、母が誰とどんな仕事をしていたのか全く知らなかった。

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