FIKA.Blog

#002「ハイスペック合コン」

残業 / コンサルティングファーム(東京)

蒼がビルのエントランスに差し掛かると、すれ違った女性がうっとりとした眼差しを向けた。
総合受付の近くにいた青山が蒼に気付き、声をかけてくる。

「よっ、イケメン君。」
「おはよう。」

青山は今日も、ファッション雑誌の広告に出てきそうな洒落た格好をしている。
同じビルの別の階で働く弁護士だが、見た目は弁護士らしくない。

エレベーターの中で青山が『交流会』やら『勉強会』の話をしていたが、あいにく仕事のことで頭がいっぱいで耳に入ってこなかった。

明日は担当するプロジェクトの東京本社でのプレゼンが控えている。
『三船グループ』の関西支社が受け持つ、海外事業に関する提案だった。
向こうの担当者は気に入ってくれているが、まずは本社の社長に話を通さなければならない。

21:30

帰り支度をしていると、マリリン・モンローが蒼のデスクに大量の資料を置いた。
マリリン・モンローというのは同じコンサルタントの先輩、赤坂まりやのあだ名だ。

「この資料まとめといて。明日の9時まで。」
「あ、これだったらセクレタリーの…」
「あんたの仕事でしょ。」
マリリンは言い放つと、カツカツとヒールを鳴らしながら帰ってしまった。

「ハァ。」
蒼はしょうがなく資料を眺める。
本来、マリリンが担当するはずだった案件を、後から来た蒼が奪う形になったらしい。
そのせいかわからないが、入社以来結構キツく当たられている。

“不動産開発〈大阪〉”という資料の途中でページをめくる手が止まった。
『花崎探偵事務所』、所有者は『林薫』とある。

「ハヤシ…カオル?」

ラップトップを開き、その名前を検索してみる。すると何かのインタビュー記事が出てきた。

【 働く女性にインタビュー 】美人警察官 林薫さん

「花ちゃん…?」

スクロールしていくと、小さな顔写真が掲載されていた。制服姿で敬礼しており、帽子の影になって顔がはっきりわからない。
それでも美人なことは何となくわかった。

imageimage

異業種交流会 / ダイニングバー

社長、三船茂の反応は上々だった。あとは関西の事業本部長と話を進めていくことになる。
プレゼンがうまくいって気分が晴れやかだった。

青山に言われた店に入ると、奥まったスペースに男女が座っているのが見えた。

「来た来た。彼が神谷蒼くんね。」
「えー!かっこいいじゃん!」

– 合コン?

「青山君、”勉強会”って言わなかった?」
「勉強になるだろ。」

蒼と青山がコソコソ話をしていると、女子たちが一斉に品定めするのがわかった。
高級腕時計、見るからに仕立てのいいスーツ、そして端正な顔立ち。

– ふうん、これが年収1,000万越えの独身エリートコンサルね。

女性陣は、メーカー勤務、アパレル店長、役員秘書、政治家の娘、という謎のラインナップだった。
青山とは知り合って数ヶ月だったが、かなり顔が広いヤツというのはわかった。

「ねぇ〜、蒼くんの好みのタイプってどんな子?」
目の前のあざとそうな小動物系の子が、上目遣いで言った。

左から、小動物系、ギャル、ぽっちゃり系、ちょいブス という順番で並んだ女性陣が、一斉にこちらを向いた。

「え〜っと。高身長で、清楚で、スレンダータイプの、…美人。」
「オイ。」
青山が小さい声でつっこむ。

女性陣は蒼の嫌味に気づかないのか、ウフフ、と笑っている。

「蒼くんって…おもしろいね♡」

蒼が席を立つと、後ろから小動物系とギャルが追いかけてきた。
「ね、蒼くん。連絡先交換しようよ。」

「ゴメン、仕事の電話だ。」

ポケットの携帯を操作して着信があったように見せかける。
ジェスチャーで『外で通話してくる』と伝え、入り口に向かった。

店の外に出ると、そのままフェードアウトすることにした。

けやき坂通りの木立の合間に東京タワーが輝いている。
歩きながら、昨日調べた「ハヤシ カオル」について考えていた。

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