FIKA.Blog

#006「再会」

花ちゃんの思い出

「蒼ちゃんもおいで。」
初めて会った時に花ちゃんはそう言った。

休み時間、花ちゃんに連れられ真っ暗な教室に入ると、プラネタリウムの鑑賞会が始まった。
映像関係の会社を経営しているという彼女の父親が、趣味で作ったものらしかった。

しばらくクラスメイトと一緒にキラキラ輝く星を眺めた。
隣に座った花ちゃんは目が合うと、嬉しそうに笑った。

誰に対しても壁のない花ちゃんは蒼の目に新鮮で、魅力的に映った。
一緒に過ごすうちに自然と距離が縮まっていった。

それからたった数ヶ月で別れはやってきた。
花ちゃんは卒業を待たずに別の学校に転校することになり、蒼は再び日本を離れることになった。

「学校変わるけどずっと大阪にいてるし、また会えるで。」
最後の日、花ちゃんはみんなに向かってそう言うと、蒼に小さな映写機の模型をくれた。
父親から貰った宝物らしかった。

「また会える」という言葉を信じて彼女の後ろ姿を見送った。

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2年後、蒼が帰国した時、花ちゃんは行方知れずになっていた。
同級生に連絡してみたが、皆申し合わせたように「分からない」と答えるだけだった。

かつて通った小学校や、クラスメイトと行った夏祭りの公園へも行ってみた。
でも花ちゃんがあの後どの学校に転校したか、どこで暮らしているか、誰も知らないし、何の痕跡もなかった。

あれから16年経って、もう花ちゃんの顔さえはっきりとは思い出せなくなった。
言葉や気持ちの切れ端だけが、いつまでも残っている。

訪問者 / 花崎探偵事務所

お昼ご飯の後、ホワイトボードの前に3人で集まって会議をスタートさせた。

浮気調査は証拠が出揃い、あとは報告書を仕上げるだけだ。
広告代理店で働いていたというまどかにwebページの更新と名刺作りを任せていた。

山咲には新しい案件の調査に入ってもらうことになった。
自治会の会長から、最近この辺りに現れるという『おばけ』の調査を依頼されていたのだ。

どうやらこの探偵事務所は何でも屋のような仕事が舞い込むらしい。

「おばけかぁ。調べようがないんよな。おばけはSNSも使わんやろし。」
山咲がため息交じりに言った。

社長の件で緊急会議を行った後、蒼は再び探偵事務所に向けて車を走らせていた。

替え玉にされた社長室長によれば、茂は大阪にいるらしい。

貴子に「探偵を知っている」と言い名前を挙げると、ひどく驚いた顔をしていた。
とりあえず例の事務所に依頼する口実ができたというわけだ。

入り口のガラス戸を開けると、ちょうど部屋の真ん中あたりにいた女性が振り向いた。

「花ちゃん?」

蒼は鞄を足元に落とすと、駆け寄って彼女を抱きしめた。
後ろにいた2人が目を丸くして驚いている。

「久しぶり!俺のこと覚えてる?」

少し色素の薄い、不思議な色の瞳。まつげはクルンと上向いている。
『花ちゃん』に間違いなかった。

薫は突然抱きついてきた男の姿をしげしげと眺めた。
パリッとしたスーツを着こなし、スラリと背が高く、人懐っこそうな黒目がちの目をしている。
見たことのない顔だった。

「だれ?」

薫と蒼はポカンとしたまま、お互いにしばらく見つめ合った。

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