FIKA.Blog

#007「消えた社長」

捜索依頼 / 花崎探偵事務所

蒼はスーツのポケットから名刺を取り出して薫の目の前に差し出した。
『神谷 蒼』とある。

「カミタニ…ソウ?」
「カミヤ、アオイ。」

「花ちゃん、本当に覚えてない?」
蒼は薫の目をまじまじと見つめた。

「あのー…すんません。社長、ハヤシカオルさんて名前ですけど。人違いちゃいます?」
山咲がテーブルの上に置かれていた薫の名刺を取り、蒼に向けてかざした。

「もしかしてもう結婚してる?」
「結婚!?」
山咲とまどかが驚いて繰り返す。

「あ、ううん、両親が離婚してて。お母ちゃんの旧姓がハヤシやから..。」

「そっか、そうだよな..。」
蒼はホッとしたような悲しむような、複雑な表情で返した。

「じゃあ思い出したら連絡してくれよ。」
そう言うと名刺の裏に連絡先を書き込んで、薫の手に持たせた。
と、同時に山咲が持っていた薫の名刺をサッと引き取り、胸ポケットにしまった。

「俺、今日は依頼があって来たんだ。」

会議テーブルの上にPCや資料が置かれた。
『三船茂』という男性が失踪したらしい。大企業の社長というから大ごとだ。

「期限は3日。それ以降は警察が動く。その時は社長解任だろうけど。」
蒼は人ごとのように言った。

PCの履歴を復元し、大阪にいるらしい社長を探すことになった。
依頼の見積もりを受け取ると、蒼はまだ何か言いたげだったが、結局帰っていった。

疑惑

蒼が去ったあと、念の為山咲が身元を調べた。
有名私立校やインターナショナルスクール、超難関大学を卒業し、職歴も外銀、MBA留学、コンサルなど、華やかな横文字が並んでいる。

「なんか詐欺師みたいな経歴じゃないですか?嘘っぽいって言うか。」
まどかが独りごちる。

確かに蒼は詐欺師としての条件を満たしているように思えた。
嘘のように華やかな経歴、人を惹きつける外見、話し振りからして頭の回転も早そうだった。

その上、薫の通った小学校の入学・卒業者名簿に蒼の名前はなかった。

「『花ちゃん』て言うあだ名知ってるん、小学校の時の知り合いだけやねんけど…。」
「そもそもこの人東京出身で帰国子女で、大阪に縁もゆかりもなさそうやねんなぁ。もうちょっと詳しく調べてみましょか? 途中で転校したとか…。」

「ええわ、後にしよ。とりあえず三船社長のこと探さなな。正式に依頼されたわけやし。」

薫とまどかが自分の席に戻っていったタイミングで、山咲の仕事用アドレスに新着メールが届いた。

山咲くんへ
Aoi Kamiya <kamiya.aoi@***mail.com>

神谷蒼です。

個人的なお願いなんだけど、
薫ちゃんについて調べて欲しい。
報酬は弾む。

よろしく。

– 報酬…?

蒼はいつの間にか山咲の名刺もポケットにしまっていたらしい。

疑問 / 蒼の部屋(東京)

– なんで俺のこと覚えてなかったんだろ。

ベッドに腰掛けてもう一度考えてみた。

小学生の頃に比べると身長は20cm以上伸びたし、顔つきも変わったかもしれない。
昔は色白で華奢だったため、よく女の子と間違えられた。

– 16年も前だし普通曖昧だよな…。

事務所のガラス戸を開けた時、こちらを振り返った薫の姿が蘇った。

今の薫と思い出を共有したいと思った。

imageimage

« »
Scroll Up