FIKA.Blog

#008「女子会のジンクス」

使命 / 花崎探偵事務所

神谷蒼が事務所に現れた瞬間、嫌な予感がした。

あの男が事務所の社長・薫のことを、邪(よこしま)な目で見ているのは明白だった。

少女漫画で言うところの、主人公にちょっかいを出してくる無駄にイケメンの女たらし。
純情乙女の心をかき乱す悪い男。

ここ数日、麗しい薫のすぐそばで働くという幸せな時間を過ごしていた。
まどかが日常会話の中で行なったリサーチによると、信じられないことに薫には特定の男性がいないらしい。

– 社長の貞操は私が守らなくちゃ!

悪い男から美女を守る。それはまどかに課せられた使命のように感じられた。

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「三船社長、病院と墓参り行くつもりちゃいますか。」
「墓参り?」

PCの履歴を復元した山咲が、三船社長の行き先と思われる場所を特定した。
モニターに映し出された地図は、薫の知っている場所だった。父のお墓がある墓地だ。

「病院の方ですけど、HCU(高度治療室)の面会なんで、行くなら明日っすね。時間限られてるし。」
「そしたらお墓の方は、今日の夕方か明日の面会時間の前後やろか。」

交通機関の時刻と病院の面会時間を照らし合わせ、2箇所へ行く段取りを決めた。

東京から帰った女 / バー(大阪・梅田)

『杏奈さんが帰ってきたで!!』

薫の携帯にそんなメッセージが入った。
2年間東京に異動になっていた杏奈が大阪へ帰ってきたのだ。

薫、杏奈、美月は大学時代からの友人で、『DIJ』(何の略かはわからない)と言う大学の非公認サークルのメンバーだった。
卒業してからも3人だけでDIJを続けていたが、それぞれ仕事が忙しくすっかり疎遠になっていた。
杏奈が東京に行って以来なので、3人で集まるのは2年ぶりだ。

西梅田駅近くのバーに入ると杏奈と美月が気付き、手を振ってきた。

「かおるぅ〜!!」

杏奈は「都会の風にあたって洗練されて戻ってきたで」と言っていたが、薫の目には変わっていないように見えた。

「うちな、東京でもっさんと会うたで。ほんで、あのジンクス、嘘らしいで!」

「もっさんて誰?」「ジンクスて何?」
薫と美月が同時に聞いた。

元々DIJはシングル(彼氏なし)限定の女子会で、彼氏ができたら脱退するというルールがある。
ジンクスというのは『DIJに残った最後の1人は一生良い縁に恵まれない』というものだった。
薫も美月も存在自体知らなかったが、もっさん(大学の2期先輩)が勝手に作ったものらしい。

「なあ薫、彼氏いてる?」
不意に杏奈が問いかけた。

杏奈は何年か前から婚活中で、時々”いい感じの人”とデートしているらしく、美月には付き合ったり別れたりの相手がいる。
薫には長い間それらしい人がいないし、昔から男運がないのは2人も承知だった。

「ううん、いてへんけど。」
「なんでなんで!?」

「なんでって言われても..。」
薫と美月がなんとなく顔を見合わせ、杏奈に向き直ると、なんと杏奈はボロボロ泣き出していた。

「どうしたん!?」
「なんでやねん。こんなべっぴんやのに。おかしいやん。」

杏奈は転勤のストレスなのか、情緒不安定になっているのか、その後もわあわあ泣くばかりだった。
困り果てた薫と美月は「後日改めて会おう」ということで、杏奈に付き添いつつ、この日は解散となった。

杏奈がなぜ泣き出したのか、薫には見当もつかなかった。

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